はじめに
外国居住の方(外国人を含む)が日本にある不動産を相続し、それを売却したいというご相談がよくあります。私の出身地である知多半島の不動産だけでも2件そのようなご相談があり、地元の不動産業者さん、測量士さん、司法書士さんらと一緒に仕事をするのはとても楽しい経験でした。
相続した方が何年か不動産を保有された後に売却される場合もあれば、相続した直後に売却される場合もあります。換価分割という形をとることもありますが、以下では、一人の相続人が日本の不動産を相続し、それを売却する、という場合を想定して、実務で典型的に問題となる点について書きたいと思います。
そもそもどうやって相続するのか & 国内連絡先の登記という新制度
外国居住の方(外国人を含む)がそもそもどうやって相続するのかについては、以前の記事(国際相続(どの国の法律に従って相続するか))をご参照頂ければと思います。
被相続人が日本人の場合は準拠法は日本法となりますし、被相続人が外国籍の場合であっても、英米法系などの「相続分割主義」の国の人の場合は日本にある不動産については日本法の適用となることが多く、遺産分割協議や調停で取得できます。
以前は、普通に住所と名前を登記するだけでしたが、令和6年4月より制度が変わり、外国居住者の場合には原則として日本国内の連絡先も登記しなければならないこととなりました。
私自身も、最近初めて、外国居住の依頼者の日本国内の連絡先として登記されました。弁護士会発行の印鑑証明書を取得して連絡先となることの承諾書に記名捺印し、事務所住所と職務上の氏名で簡単に登記することができました(と言っても、登記自体は司法書士さんにお願いするので自力でやった訳ではないですが)。
不動産業者さんとの媒介契約
相続した不動産を売却したいと思った場合、まずは不動産業者さんと媒介契約を結ぶ必要があります。
不動産業者さんは、被相続人の知り合いであった地元の業者や、自分の知り合いなど何らかの伝手で探すことが多いですが、近隣に親族などがいない場合には、定期的に窓を開けるなどのサービスをして下さる業者さんだと助かるなぁと感じます(そのようなお願いができる場合は専任媒介にすることが多いです)。
媒介契約書は、代理人名でサインすることもありますし、本人にサインをお願いすることもあります。
買主さんとの売買契約の締結(手付・違約金・契約不適合責任)
買主さんが見つかって価格などの条件に折り合えば、売買契約を締結しますが、これも代理人名でサインする場合もあれば、契約時に来日して貰って本人にサインして貰う場合もあります。買主側から電子署名を提案されることもあります。
理想は、契約時に来日して、仲介業者さんや測量士さん、司法書士さんなどと(本人確認を兼ねて)顔合わせして貰い、また買主さんとも顔合わせして頂くと、その後の作業が信頼関係に基づいてスムーズに進みやすいように思います。
売買契約の内容は普通の場合とあまり変わらないですが、論点になり得るのは、手付金や違約金、契約不適合責任をどうするかではないでしょうか。
(1) 手付金
手付金については、私はどちらかというと無しで行うことが多いです。受け取って私が保管しても、返すか返さないかで揉めることになっても困りますし、海外送金して海外で保管されることは買主としては抵抗があるように思います。
(2) 違約金
不履行の場合の違約金は、基本的にはある程度は入れられるのだと思いますが、引渡しまでの作業の一つ一つの段階で、日本居住者と同じようにはいかないことが多いため、期限の設定等にはとても気を使います。
例えば測量や境界確定のための委任状にサインを貰うという一事をもっても、外国居住者の場合は、メールで書式を送って印刷して貰い、記入方法について英語で説明をして、間違いなく作成されているかを確認するためにPDFを送ってもらい、その後原本を郵送して貰うという段取りが必要となり、時間がかかります。
自宅にプリンターがあるかどうか、FedExなどをすぐ手配できるかも人によって違います(郵便局から送られる方もいますが時間がかかります)。
後述のとおり所有権移転登記のための委任状等は公証人の認証を受けて貰う必要があり、海外では基本的に公証人は日本よりもアクセスしやすい(数が多い)ようですが、すぐに動けるかどうかも人によってかなり違います。
(3) 契約不適合責任
契約不適合責任が免責となる(現状渡しになる)ように交渉することもあれば、3ヶ月程度の契約不適合責任を受け入れることもあります。ただ契約不適合責任を設定する場合も、買主にとっては売主が外国居住だと実効可能性が心配なところだと思いますし、事前のインスペクションを利用するなどして、発生確率が低くなるようにしています。
引渡しまでの作業(所有権移転登記のための書類と公証人の認証)
契約締結後は、普通の売買と同じように、測量や境界確定などの作業が入ります。
弁護士としてのメインの作業は、所有権移転登記のための書類を、司法書士さんと協力して用意することです。司法書士さんの本人確認が終わっていない場合は、それをどうするかも考える必要があります。司法書士さんは通常は買主が指定される人一人となることが多いと思いますが、売主が外国居住者(外国人)であるということで買主側の司法書士さんが二の足を踏まれる時は、慣れた方に売主側として入って頂くこともあります。
書類の一部(司法書士への委任状など)については、印鑑証明書の代わりに公証人の認証を受けて貰う必要があり、現地のルールなどにより日本語の書類のままで認証を受けられることもあれば、現地語の書類で認証を受けた上で翻訳することもあります。(英語の場合は自分が翻訳者として署名しています。)
悩ましいのは譲渡日(売買の日付)の記載で、基本的には譲渡日を予め決めて記入した上で認証を取って貰いますが、そうすると譲渡日が動かせないのが不便であると感じます。
また、司法書士さんから、認証を受けた日と譲渡日の間が空きすぎているとあまり望ましくないと聞いたことがありますが、一方で(違約金のリスクを避けるためにも)早めに手配したいという思いもあり、スケジューリングが一つの大事な仕事となります。
引渡しと決済(代金受領と10.21%の源泉徴収)
通常の場合と同じように、一箇所に集まり、登記書類を確認して貰った上で、代金送金、着金確認ができ次第、登記書類を引き渡す、ということになります。
今までの例では、代金は私の預り金口座で受け取っているため、基本的に国内取引と同じようにできています。(ただ金額があまりに大きい場合など預かることが躊躇される場合も出てくるかと思います。)
売主が海外居住者の場合に一点注意しなければならないのは、原則として買主が売買代金の10.21%(現行税率)を源泉徴収する必要がある場合があるということです。(個人が自己またはその親族の居住の用に供するために購入した場合であって、譲渡対価が1億円以下である場合を除く)
固定資産税等の精算金も売買代金とみなされるため、これも含めての10.21%となります。
譲渡所得についての確定申告(納税管理人と依頼者に説明する際の注意点)
売主としては不動産所在地である日本で確定申告をする必要があります。源泉徴収されている場合には、源泉徴収分を考慮して、還付または追加納税となりますが、取得価格が証明できない場合(購入時の資料がない場合)などは追加納税となることが多いです。
私の場合は、預り金口座で受け取った売買代金を依頼者に海外送金する際に、確定申告のための税理士報酬と追加納税資金を預からせて頂くことが多いです。一旦海外送金してからまた戻して貰うと、送金手数料がかかる上に為替変動があるため、そのまま円で預かっておくのが合理的と思うためですが、これはもちろん依頼者との合意に拠ります。
外国居住者は日本で納税管理人を定める必要があるとされており、譲渡所得を申告する場合には、私が所得税の納税管理人となることが多いです。(不動産売却までの間、固定資産税などについて納税管理人になることもあります。)
なお、基本的には、売主の居住国においても確定申告が求められると思いますが、①国によっては、先祖の取得価格ではなく、自分が相続した時の価格と売却価格の差額について譲渡所得を計算すること、②日本で支払った税額を外国税額控除できる場合が多いと思われることなどから、居住国においては大きな納税額にならないことが多いのではないかと思われます。
- 逆に言えば、日本においては「先祖の取得価格との差額」について譲渡所得が計算されるということを説明しておかないと、本人の予想以上の額となることがあります。
- 日本の相続税を払っている場合には、相続開始から3年10ヶ月以内(相続税の申告期限から3年以内)に譲渡した場合には、相続税の一部(当該不動産の価値に対応する部分)を取得費に加算できるので、そのことも合わせて説明し、上記期限までに売却できるようにスケジューリングするのが望ましいです。
終わりに(士業・専門家の皆様との連携)
外国居住の方(外国人を含む)が相続した不動産を売却するという典型的な案件について、時系列に沿って流れを書いてみました。
改めて考えると、純粋な弁護士としての業務は売買契約の内容の交渉くらいで、それ以外は、不動産業者さん、司法書士さん、測量士さん、税理士さんなど他業種の方と依頼者をつなぐ役割が多いです。他業種の方と知り合うことができ、プロとして協力し合うことができるので、私としてはとても好きな仕事のうちの一つです。
- 士業の先生方からのお問い合わせ、協働も積極的にお引き受けしています。よろしければこちらもご参照ください。


