先日、一般社団法人 日本国際紛争解決センター(JIDRC)と、香港国際仲裁センター(HKIAC)の共催によるセミナーに参加しました。
参加と言っても、オンラインです。以前はセミナーのために東京に行くということがよくありましたが、最近は全てオンラインで視聴し、チャット機能等で質問をすることもできますので、地方在住者としては大変ありがたいです。
今回のセミナーのトピックの中で、中国本土と香港の間の、仲裁手続の相互支援に関する取り決めについての話がとても印象に残りましたので、その後に自分が調べたことも含め、書きたいと思います。
香港国際仲裁センター(HKIAC)とは
香港国際仲裁センターは、英語ではHong Kong International Arbitration Centre(HKIAC)と言い、香港にある国際仲裁を取り扱う(調停も取り扱っています)機関です。
世界的にもメジャーな仲裁機関で、商事法務研究会の「仲裁法制の見直しを中心とした研究会 」が公表している資料によると、年間の利用件数は、250件から300件程度とされています。
アジアでは、シンガポール国際仲裁センターの台頭が著しく、同資料によると、年間で400件程度になっているので、香港はやや押され気味と言えると思います。
仲裁手続の相互支援に関する中国本土と香港の取り決めについて
2019年10月、中国本土と香港の間で、香港で行われている仲裁手続の最中に中国の裁判所による保全措置が必要となったら協力し、逆もまた同様としよう、という取り決めがなされました。
この取り決めの英語訳は、こちらで見れます。
仲裁手続中の保全措置とは、例えば、仲裁をやっている間に相手が財産を隠してしまうかもしれないという場合に、仲裁判断が出るまでの間、財産の移転ができないようにするといった措置です。
この取り決めにより中国の裁判所の保全措置を利用するためには、仲裁地を香港とし、指定された仲裁機関(現時点で、HKIACを含む6つの機関)が取り扱う仲裁である必要があります。
これらの仲裁機関が仲裁申立を受理する前であっても、当事者は中国の裁判所に保全措置を申し立てることができますが、保全命令の発令後30日以内に仲裁申立が受理されたことの証明書を中国の裁判所に提出する必要があります。
取り決めの利用実績
画期的な取り決めであると思いますが、その利用実績にも目を惹かれます。2020年8月27日にHKIACが公表した統計によると、
取り決めの利用についての今後への期待
8月の公表時までの利用実績は、財産の保全のみのようですが、この取り決めに基づき中国の裁判所で利用できる保全措置は、財産の保全、証拠の保全と、行為の保全(差止めなど)とされています。
日本企業が中国企業と紛争になった場合には、知的財産権を侵害する行為を止めたいなど、行為を差し止めたい場合も多く想定されますので、財産の保全以外のタイプの保全措置の利用実績についても、注目していきたいと思います。