インコタームズの選択に関する注意点、契約書に書くときの注意点と条項例

国際売買取引では、商品が国をまたいで大きく移動することから、送料や保険料などを売主と買主のどちらが負担するか、また、物品等の損傷のリスクがどこで売主から買主に移転するかの取り決めがとても大事になります。

これらは、インコタームズ(Incoterms)に基づいて取り決めるのが通常ですので、本記事では、インコタームズの選択に関する注意点と、それを契約書に書くときの注意点と具体的な条項例について書きたいと思います。

インコタームズとは

何を定めているか

インコタームズとは、国際商業会議所(ICC)が公表している貿易取引のための定型的な取引条件です。現在は11種類あり、その中から一つを選べば、以下のようなことが決まるようになっています。

  • 売主と買主のどちらが、送料や保険料などの費用を負担するか
  • 売主から買主に危険が移転する場所と時
  • 運送や保険の手配、輸出許可や輸入許可などの取得をどちらが行うか

改訂の歴史

インコタームズは、最初に1936年に公表され、その後改訂が重ねられてきました。

1980年以降は、1980年、1990年、2000年、2010年、2020年と、10年ごとに改訂がなされており、2020年版が最新のものです。

採用するかどうかは当事者の自由(実際はほとんど全ての取引で採用されている)

インコタームズは法律ではないので、採用するかどうかは当事者の自由です。

インコタームズを採用せずに、独自に細かく条件を取り決めることもできます。

しかし、インコタームズを一つ選べば多くのことが決まり、大変便利なので、実際はほとんど全ての取引で採用されていると思います。

どこを見れば詳細が分かるか(出版物)

それぞれの定型取引条件をまとめた書籍が、国際商業会議所の日本委員会から発売されていて、ファックスやメールで購入を申し込むことができます。

上記のとおり法律ではないのですが、当事者間で採用すると決めたら、民法と同じような効力を有しますので、私も、六法全書と共に、この書籍を常に手元に置いています。

ただ六法全書と違って、絵での説明もたくさん入っています(^ ^)

インコタームズの選択に関する注意点

インコタームズの定型取引条件を選択する際に、よく間違ってみられるのが、FOBやCFR、CIFを使用すべきでない場合において、これらが使用されていることです。

FOBの問題点

FOBは「Free On Board」の略で、売主が、買主が指定した本船の船上に物品を置くことにより引き渡し、その時点で物品の損傷等のリスクも買主に移転します。

* インコタームズ2000までは、本船の手すりを超えた時という基準でしたが、2010からは本船の船上に置いた時ということに変わりました。

FOBは、本来、在来船を利用する時のための取引条件で、コンテナ輸送の場合には使うべきではないとされています。

コンテナ輸送の場合、物品が本船の船上に置かれる前、コンテナターミナルで運送人に引き渡され、この時点で売主の義務やリスク負担が終了するとするのが合理的だからです。

国際商業会議所(ICC)も、コンテナ輸送の場合にはFOBではなく、FCAの使用を考慮するようにと、長年注意喚起をしています。

CFRとCIFの問題点

同じことが、CFRとCIFについても言えます。

CFRは「Cost and Freight」の略で、売主が目的地までの船を手配し、運賃を負担します。売主は保険をかける義務はなく、保険をかけたい場合には買主が手配して費用を負担します。(但し、買主から依頼がある場合には、売主が有している保険に関する情報を提供する必要があります。)

CIFは「Cost, Insurance and Freight」の略で、売主が目的地まで船と保険の手配をして、運賃と保険料を負担します。

このようにコスト負担はそれぞれ違うのですが、CFR でもCIFでも、引き渡しとリスク移転については、FOBと同じとなっており、売主は、本船の船上に物品を置くことにより買主に引き渡し、その時点で物品の損傷等のリスクも買主に移転します。

従って、コンテナ輸送の場合に適さない点もFOBと同じで、国際商業会議所(ICC)は、コンテナ輸送の場合には、CFRではなくCPT、CIFではなくCIPが適切であると、注意喚起しています。

契約書に書くときの注意点と具体例

どこに書くか

インコタームズの定型的取引条件の一つを採用することとした場合、具体的にはどこに書くのでしょうか?

見積書等

通常、まず、売主が見積書を出す際に、見積書に「●●●円 FCA XXX」のように、金額とセットで記載されます。

どの取引条件を採用するかによって、コスト負担が変わってきますので、取引条件と金額は必ずセットで交渉します。

単発取引の売買契約書

単発の取引で売買契約書を作成する場合、インコタームズのどの取引条件を採用するかについても、売買契約書に盛り込みます。

見積書に書いてあったとしても、その後の交渉で変更があった可能性もありますから、最終的に決まった条件として、売買契約書に盛り込む必要があるでしょう。

取引基本契約書

では、取引基本契約書を作成する場合はどうでしょうか?

取引基本契約とは、継続的取引のための基本的な条件を定めるための契約です。個々の取引における対象物(商品)や数量などは、別途注文書と受注書などにより定めます。

どこまで細かく取引基本契約に書くかというのはケース・バイ・ケースの面もありますが、インコタームズの取引条件を個別取引ごとにコロコロ変えるということはあまりないと思いますので、取引基本契約に書いておいた方がよい場合が多いのではないでしょうか。

ただ、何らかの事情で、ある個別取引については、普段とは別の取引条件にしたいということもあるかもしれませんので、個別契約で変更できる余地は残しておいた方がよいと思います。

(具体的な条項例については下記をご参照下さい。)

所有権移転時期は別途定めが必要

インコタームズの定型取引条件では、所有権移転の時期については定められていません。したがって、所有権移転の時期については、別途、定める必要があります。

前払いの場合は、引渡時に所有権移転が移転することとすることが多く、後払いの場合には、代金完済まで所有権を留保することが多いように思います。

(具体的な条項例については下記をご参照下さい。)

「インコタームズ」という言葉と何年版かを書く

インコタームズのある定型取引条件を採用することを定める場合、「インコタームズ」ということと、何年版か、ということを書く必要があります。

「インコタームズ」ということを書く必要がある理由は、例えばFOBと言った場合、インコタームズ以外の(ICCが定めた以外の)FOBというものがあり、条件の中身も違うからです。アメリカとの取引において特に注意が必要です。

また上記のとおり、インコタームズは改訂されることがあるので、何年版なのかを特定する必要があります。あえて古いバージョンに則る合意をすることもできますが、通常は、契約時における最新のもの(今であればインコタームズ2020)を使います。

具体的な条項の例

取引基本契約に定める時の具体的な条項の例は、以下のようなものです。

条項例1

Unless otherwise agreed in writing between the parties, the delivery term of Products shall be FCA [    ] (Incoterms 2020).

(和訳)当事者間で書面により別段の定めをしない限り、本製品の引渡し条件は、FCA [    ]とする(インコタームズ2020)。

(解説)取引基本契約において原則的な条件を定めておき、書面で別途合意すれば、個別契約において別の取引条件を採用することができることを明記した例です。

条項例2

Prices of Products shall be denominated in Japanese Yen and on the basis of FCA [   ] (Incoterms 2020).   Risk and title to Products shall transfer from XXX to YYY when Products are delivered to a carrier at [   ].

(和訳)本製品の価格は、日本円建てで、FCA 本件港とする(インコタームズ2020)。本製品に対するリスクと所有権は、 [   ] で製品が運送人に引き渡された時点で、XXXからYYYに移転する。

(解説)上記のとおり、リスクの移転の時期は、FCAと書けば自動的に決まるのですが、所有権移転の定めは別途必要です。この例では、所有権移転の時期を定めるのに合わせて、リスク移転の時期についても確認的に書いています。(蛇足と捉える考え方もありますが、相手にちゃんと認識しておいて欲しいような場合はこのように確認的に書いてもよいと思います。)

* 取引基本契約書、売買契約書、その他の英文契約書の作成やレビューについては、いつでもスポットでお受けしていますので、メールまたはお問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせ下さい。法人のお客様向けのサービス案内のページもご参照下さい。