国際離婚を考える際、最初に確認すべきなのは「協議離婚(離婚届による離婚)ができるのか」、そして裁判所の利用が必要な場合に「どこの国の裁判所に申し立てをすべきか」という2点です。本記事ではまず、協議離婚の可否について詳しく説明します。
はじめに
日本人が離婚しようと考えた場合、多くの人がまず考えるのは協議離婚(離婚届の提出)だと思いますが、実は協議離婚は日本独特の制度です。そのため、国際離婚の場合は、協議離婚で大丈夫なのかをまず検討する必要があります。
日本での受理条件
まず、日本の役所が協議離婚届を受け付けるか否かですが、これは比較的広い範囲で受け付けられています。少なくとも、あなた(夫婦の片方)が日本に住む日本人の場合は、日本の法律では離婚の準拠法は日本法となりますので(法の適用に関する通則法27条)、日本法に基づく協議離婚として受け付けられるでしょう。
配偶者母国での承認という別問題
しかし、日本の役所が協議離婚届を受け付けるか否かと、配偶者の母国においてその効力が承認されるか否かは別の問題です。実務上はこの点を軽視してトラブルになる例が少なくありません。
多くの国では、離婚する場合には裁判所での手続を取らなければならないことになっており、他の国の裁判所でなされた離婚について(一定の要件を満たせば)その効力を承認するという考え方はあるものの、日本の協議離婚のようなものはあまり想定されていません。
したがって、日本で協議離婚をした後に、それ(離婚届受理証明書など)を配偶者の母国で提出して「離婚しました」と言っても、「何それ?」と言われるリスクが否定できません。配偶者の母国がどこかによってもリスクの程度は異なりますので、次に国別の説明をしたいと思います。
配偶者の国籍ごとの留意点
(i)配偶者がアメリカ国籍の場合
実務的には、アメリカ国籍の配偶者の場合には協議離婚は避け、調停離婚または裁判離婚を選択するのが安全です。
その根拠として大きいのは、在日米大使館・領事館が、そのウェブサイトにおいて注意喚起をしているからです。具体的には、「日本での離婚」というページ(https://jp.usembassy.gov/ja/services-ja/divorce-ja/)において、「日本人と米国市民との協議離婚は日本では合法です。離婚の書類にきちんと署名 捺印がされていれば、米国市民は区役所に実際に出頭する必要がありません。しかし、米国には裁判以外の手続きによる離婚はありません。日本での区役所等で の離婚手続きが米国でも合法的であるかどうかは、各州の法律によりますのでご注意ください。」と書かれています。
(アメリカにおいては、離婚は州法の領域のため、サイトの記載のとおり、州ごとの判断となります。)
実務的には、配偶者がアメリカ国籍の場合には、多くの場合、協議離婚を避けて裁判所が利用されていると思います。この場合、調停離婚(裁判の前の調停の段階で合意して離婚すること)でもよいと考えられています。
なぜなら、日本法上、調停が成立した時は判決と同一の効力を有するとされているためです。そのことが外国の官庁にも分かるように、当事者が外国籍の場合には調停調書に「本調停は、日本国家事事件手続法第268条 により、確定判決と同一の効力を有 する」と記載するのが一般的です。
(ii)配偶者がイギリス国籍
イギリスの家族法(Family Law Act 1986)では、海外での離婚が「裁判その他の公的手続(judicial or other proceedings)」により得られたか(46条(1))、それ以外の方法により得られか(46条(2))によって扱いを分けて、それぞれにつき、どのような場合にその効力を承認するかどうか要件を定めています。
協議離婚が公的手続(proceedings)に当たるか否かは議論があり得るところです。若干特殊な事例ですが、当たると判断された判例もあるようです。
- なお、イギリス政府のサイト(https://www.gov.uk/government/publications/overseas-divorces-set13/overseas-divorces-set13)においても、上記の家族法の内容についてガイダンスが公表されていました。現在もガイダンス自体は掲載されているものの、「このガイダンスは2022年3月16日に取り下げられた」との記載があります。
- 実際の案件においては、最新の情報を含め、弁護士や関係官庁にご確認下さい。
(iii)配偶者がオーストラリア国籍の場合
オーストラリアの法律では、海外での離婚について、どのような方法により得られたか否かを区別せず、一定の要件を満たせば承認する旨を定めています。
その条文をそのまま読むと協議離婚も承認される余地がありそうですが、在日オーストラリア大使館のウェブサイトの「Marriage and Divorce」というページ(https://japan.embassy.gov.au/tkyo/marriage_divorce.html)では、日本で成立した離婚がオーストラリアで承認されるかどうかを確認したい場合には、オーストラリアの家庭裁判所に確認を取るようにと書かれています。
実際の案件においては、最新の情報を含め、弁護士や関係官庁にご確認下さい。
(iv)配偶者の国籍がドイツの場合
判例や条文ベースでなくて恐縮ですが、双方が日本在住の日本人とドイツ人のご夫婦の離婚において、ご本人(ドイツ人配偶者)がドイツの関係官庁に確認したところ、「協議離婚で大丈夫と言われた」とのことで、またとてもお急ぎであったため、離婚条件について公正証書で合意した上で協議離婚届を提出したことがあります。
個別の事情によるため、他のケースに一般化はできません。実際の案件においては、最新の情報を含め、弁護士や関係官庁にご確認下さい。
実務的にお勧めする方法:調停離婚の活用
上記のとおり、配偶者の国籍によっては協議離婚をしても問題がない場合もあり得ますが、私としては、基本的には調停離婚をお勧めしています。調停離婚であれば、上記のとおり、確定判決と同じ効力とされており、ほぼ安心だからです。
(i)調停を短期間で成立させるための工夫
調停は時間がかかるというイメージをお持ちかもしれませんが、実際には、合意内容を整理したうえで申立てすれば、1~2回で終わるケースもあります。双方に弁護士がついて、調停条項案まで固まっていれば、1回目の調停期日で調停を成立させることも不可能ではありません。
もっとも、双方に弁護士がついている場合以外では、離婚条件について合意していると思っていても、いざ調停が始まってみたら決まっていないことが見つかった、ということもあるかもしれません。その場合は何度か期日を重ねる必要がありますが、それにより必要なことを漏れなく決められることにもなりますので、そういう意味からも調停の利用はお勧めです。
(ii)調停委員に国際結婚や離婚の背景を知ってもらうための工夫
最近では、裁判所や調停委員の間でも、かなり国際結婚や離婚についての理解が進んできているように思います。
日本人配偶者が直面している配偶者との文化的違いなどによる苦労を理解していますし、外国人配偶が抱えている日本という異国の地の裁判所にこなければならないことの不安感なども理解しています。
夫婦の在り方、家族の在り方は本当に人それぞれですので、自分が置かれた状況や自分の価値観・考えを、調停委員にしっかりと話をしていくことが大事だと思います。
私が代理人を務める場合、遠方の裁判所の場合はオンライン出頭も可能なのですが、少なくとも第1回目の期日は依頼者とともに裁判所に出向き、調停委員と顔を合わせて話をして、依頼者が置かれている状況を理解して貰うように努めています。
まとめ
配偶者が外国籍の場合は、基本的には裁判所を利用すること(まずは調停)をお勧めしています。「どの国の裁判所か」という点については、冒頭に記載のとおり記事を分けて書かせていただきますが、夫婦ともに日本在住の場合には、基本的には日本の裁判所を使うことになるでしょう。
協議離婚を検討できる場合もありますが、慎重に検討する必要があります。
ご事情や配偶者の国籍によって適切な方法は異なります。配偶者が外国籍の方で離婚を検討しているけど、どのように進めたらよいか分からない方、話し合いや調停への弁護士の同席をご希望の方は、是非一度ご相談下さい。日本全国からご相談を受け付けています。
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