国際売買取引を始める際にまず押さえておくべきと思うポイントを、思い切って4つに絞って、書いてみたいと思います。
どうして4つに絞ったかというと、以前に、友人の弁護士と、打ち合わせなしで、英語と日本語で契約書を用意した(してしまった)時の経験からです。
友人の弁護士と、同じ資料を見て、打ち合わせなしで、英語と日本語でバラバラに契約書を用意したら?
以前、友人の弁護士に、顧客企業が外国の企業と取引をする、具体的には日本国内における(独占的)販売代理店になる予定だが、契約書を作るのを手伝って欲しいと頼まれたことがあります。
その案件では、正規の契約は英語になるが、企業内での検討用に日本語も必要だということでした。(なお、取引相手は、ヨーロッパ大陸の国の会社で、当方からドラフト提示ができるような中小規模の会社でした。)
私は、最初の打ち合わせに向けて、取引相手のホームページに掲載された製品紹介のビデオを見ながら、英文で、議論のベースとなるような契約書の素案を用意しました。すると当日、友人も、同じビデオを見て、日本語で議論のベースとなる契約書案を用意していました。
これでは二度手間で、ちゃんと打ち合わせをしていなかった私たちが悪いのですが(^_^;)
それはさておき、その時に驚いたのが、私が作った英語の契約書案も、友人が作った日本語の契約書案も、意図するところや重視するところは、下記の4点を除き、ほぼ一緒だったのです。
そこで、その4点について書きたいと思います。本記事では各点の概要を書いて、それぞれにつき、別記事で更に詳しく書きたいと思います。
裁判管轄条項か仲裁条項か(日本の裁判所ではなぜ問題か)
友人の弁護士が用意したドラフトでは、「本契約に関する一切の紛争は、名古屋地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する」という趣旨のことが書かれていました。
国内取引においては、できれば自社の近くの裁判所で争いたいと考えることが多いので、自社近くの裁判所を指定する、というのは、自然な感覚です。
しかし、国際取引の場合、自国の裁判所を指定してよいかどうかは、とても慎重に考える必要があります。なぜなら、仮に日本の裁判所で裁判を起こして、勝訴判決を得たとしても、その判決に基づき、外国に所在する相手の財産に対して強制執行できるとは限らない、というより基本的には強制執行は難しいと考えるべきだからです。
そのため、勝訴すれば外国で強制執行ができる国際仲裁を選択したり、被告地主義と呼ばれる、被告(訴えられる側)となる方の裁判所を専属的合意管轄裁判所とする旨の合意をしたりことが原則となります。
引渡し条件について(インコタームズ)
国内取引でも、どこまでの送料をどちらが負担する、ということが取り決められていると思いますが、国際取引の場合、送料や保険料、通関費用や関税などの負担が大きいため、どこまでの費用をどちらが負担するか、そして危険(商品の破損等のリスク)をどこまで売主が負担するかの取り決めが、とても大事になります。
そして、これはほとんどの場合、国際商業会議所が出しているIncoterms(インコタームズ)が定める引渡し条件の中から、一つを選択することにより、定められます。
FOBとかCIFとか呼ばれるもので、採算性に直結しますので、通常は、見積もりを出す段階で、「●●●円 FOB 名古屋港」のように提示されます。
ただ、上記のFOBなどが典型ですが、正確に使われていないことも多いので、注意が必要です。国際商業会議所も、長年、注意喚起をしていますが、一度根付いたものを直すのはなかなか大変で、直そうとしても(担当者の方や取引相手に)嫌な顔をされることもあります。
支払条件について(回収コストの問題)
国内取引の場合も、支払条件は大事な交渉事項の一つになると思いますが、国際取引の場合は、国内取引以上に、支払条件が大きな交渉事項となります。
まず、支払通貨が大きなポイントとなります。一般的には、どちらの当事者も、自国の通貨で決済することを望むことが多いです。為替変動というのは大きなリスクで、例えば10%為替が動くと利益が飛ぶということにもなり兼ねないためです。
また、前払いか後払いかを巡っても、激しい交渉となります。回収しなければならなくなった場合(前払いしたのに商品が来ない、あるいは商品を送ったのに払ってくれない)の、回収コストが国内取引に比べて格段に大きいためです。
ではL/Cを使えばよいのではとも思いますが、開設に時間がかかる、コストがかかるなどの理由で、単価が高い機械などは別として、繰り返し出荷するような商品では、できれば避けたいと思われることも多いようです。最初だけL/Cを利用して、信頼関係ができてきたら銀行送金に切り替える、ということもあると思います。
しかし、銀行送金でずっとうまく行っていたのに、何らかの理由で支払いを止められることもあり、いったん支払いを止められると、回収するのにとても費用がかかります。
責任分担と補償条項
国内取引の契約書に、「乙の責に帰すべき事由により甲が損害を被った場合、乙は甲に対してその損害を賠償するものとする」というような条項が見られることも多いと思います。
英文契約書では、これと似たような条項として、Indemnification(Indemnity)条項あるいはHold harmless条項とか言われるものがあります。
というような感じの条項です。
XXXを甲、YYYを乙と読み替えると、ざっくりとした意味としては、乙は、●●●●●、▲▲▲▲▲ または◆◆◆◆◆により甲(若しくはその役員など)が損害を被った場合には、その損害を補償するということです。
日本語の契約で見られる条項と比べて、以下の点が特徴的です。
- 基本的に甲が第三者から訴えられてしまった場合を想定しており、その場合に乙が甲の損害(賠償を命じられた金額など)を事後的に補償するだけでなく、訴訟の防御自体も引き受けることが重視されていること
- 日本語では「乙の責に帰すべき事由により」ですが、英文の●▲◆にはもっと色々と盛り込まれること