浜松市楽器博物館とベートーヴェン展

今回は雑記ですが、後半に少し著作権法のことについて書きたいと思います。途中で、私の下手な10秒演奏があります(クリックしなければ再生しません)が、ご容赦下さい(笑)。

浜松市楽器博物館

浜松の会社の社外役員に就任してから、何度か、浜松市の楽器博物館に行く機会がありました。浜松市楽器博物館は、世界から収集した楽器を公開展示している、日本で唯一の公立楽器博物館です。

弦楽器や管楽器などたくさんの楽器が展示されていますが、私が一番好きなのは、地下1階にある、古い時代の鍵盤楽器が展示してあるコーナーです。

チェンバロや、古い時代のピアノが展示されており、音が鳴る仕組みの模型を実際に押してみたり、ヘッドホンでその楽器の演奏を聴いたりことができます。とても素敵です。

(展示物の写真撮影やブログへのアップはOKとのことでした。)

ベートーヴェンについての企画展

今ちょうど、開館25周年記念企画展として、ベートーヴェン関係のなどの展示をしており(2020年12月8日まで)、最近これを目当てにまた行ってきたところです。

ベートーヴェンが生きた時代は、楽器がどんどん進化したようで、ベートーヴェンの年表に沿って、その時代にどのような楽器が使われていたかが分かりやすく展示されており、面白かったです。

「エリーゼのために」の正しい音は?(下手な10秒演奏あり)

楽器博物館に初めて行った時に驚いたのが、古い時代のピアノから流れるベートーヴェン作曲「エリーゼのために」の音程が、一部、私が思っていたものと違ったことです。具体的には、冒頭から、

ミレミレミシレドラ ドミラシ ミソシド ミミレミレミシレドラ ドミラシ  ミドシラ

私の下手な演奏ですが、、再生ボタンをクリックすると音が流れます。

だと思っていたのですが、「ミドシラ」の部分が「レドシラ」と演奏されているのです!
このパターンは繰り返し出てくるのですが、毎回「レドシラ」と演奏されていました。

そこで家に帰ってから調べてみると、詳細は後述しますが、一般的に広まっているのは「ミドシラ」で、正しいのは、楽器博物館で流れていたとおり「レドシラ」だということです。

ピアノの先生のブログなどでもこの点については色々と書かれていて、発表会で生徒に弾かせる時に、どちらで弾かせるか、悩まれるそうです。正しい音で弾かせると、(私のような)観客に弾き間違えたと思われるのでどうしよう、、、ということです。

楽譜の出版社の権利 

「エリーゼのために」の音の変遷の経緯と、楽譜を出版するまでの苦労

先ほど書いたように、「エリーゼのために」の音は、正しい音と、一般的に広まっている音が違ってしまっているようですが、経緯としては、以下のようです。

  • 1867年に最初に出版された楽譜では、冒頭のところが「ミドシラ」で、その後に繰り返し出てくるところ(残り5回)では「レドシラ」になっていた。
  • その後の研究で、発見されたベートーヴェンのスケッチなどから、ベートーヴェンの意図は全て「レドシラ」だったことが分かった。
  • 20世紀後半以降に出された原典版(ドイツのヘンレ社のものなど、作曲者が残した形をなるべく忠実に再現しようとした版)では、全て「レドシラ」で統一されている。
  • 一方、現在日本で一般的に普及している楽譜では、最初から5回目までが「ミドシラ」となっており、曲の最後の部分の1回だけが「レドシラ」になっている。

(参考:吉成順作「知って得するエディション講座」(音楽之友社))

この例からも分かるように、楽譜の出版社が、古い時代の(著作権が切れている)楽譜を出版する際、資料などから作曲者の意図を探るという知的な作業が発生することもありますし、そうでない場合も楽譜を見やすいようにレイアウトするには労力を要しますが、出版社に何らの権利は発生しないのでしょうか?

出版社の権利

日本の場合

日本では、基本的に、出版社に固有の権利というものはありません。出版社の団体は、CD製作者に認められる原盤権(レコード製作者の権利)のような権利を、著作権法を改正して明文で認めて欲しいと訴えていますし、政府の審議会等で審議されたりしていますが、現時点では実現していません。

しかし、外国においては、出版社に独自の権利を与えているところもあります。

イギリスの場合

イギリスでは、著作権法で、文芸、演劇または音楽の著作物を含む「発行された版の印刷配列」(typographical arrangement of a published edition)の発行者を、著作者として保護しています(イギリス著作権法9条)。

保護期間は、版が最初に出版された暦年の末から起算して25年間です(同法15条)。

ドイツの場合

ドイツでは、学術的な研究の成果を表し既存の刊行物と実質的に異なるものを発行した場合には、著作権が消滅した作品を発行した主体に、著作隣接権のような権利が付与されます(ドイツ著作権法70条1項)。

保護期間は発行後25年間です(ドイツ著作権法70条3項)。

(参考:文化庁の著作権分科会 出版関連小委員会の平成25年第1回の参考資料4「諸外国における出版者の権利等について」)