国際相続(どの国の裁判所が判断するか)

前記事で、国際相続の場合、被相続人の本国法に従って相続する、と書きました。どの国の法律に依拠するか、ということを、法律用語で「準拠法」と言います。

しかし、当事者間で話し合いができず、裁判所に遺産分割の調停や審判を申し立てて決めて貰う必要が出てくると、どこの国の裁判所に申し立てればよいのか、という問題が生じます。

裁判所の側から見ると、その案件について、日本の裁判所が判断をする権限を有するのか、という問題で、法律用語で「国際裁判管轄」と言います。

本記事では、遺産分割の国際裁判管轄について書きたいと思います。

準拠法と国際裁判管轄は別の問題

まず前提として注意が必要なのは、準拠法と国際裁判管轄は、別の問題だということです。準拠法が日本法であっても、日本の裁判所が裁判権を有するとは限りません。

反対に、日本の裁判所が裁判権を有していても、準拠法が日本法になるとは限りません。日本の裁判所が、外国の法律を適用して判断するということは普通にあります。

国際相続の場合の準拠法については前の記事で書いていますので、ご参照下さい。

遺産分割の国際裁判管轄

原則は、被相続人の最後の住所地

遺産分割について、どのような場合に日本の裁判所が裁判権を行使できるかを定めているのは、家事事件手続法の第3条の11です。

家事事件手続法

(相続に関する審判事件の管轄権)
第3条の11 裁判所は、相続に関する審判事件(*)について、相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合には相続開始の時における被相続人の居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には被相続人が相続開始の前に日本国内に住所を有していた時(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していた時を除く。)は、管轄権を有する。

* においては、相続放棄、遺産分割、寄与分など、具体的な事件の種類が書かれています。

この規定から分かるとおり、財産(遺産)の所在地は関係なく、あくまで、亡くなられた時にどこに住んでいたか、です。

財産(遺産)がある場所は関係ないのか?

この規定の導入(平成31年4月施行の家事事件手続法改正)に向けた法制審議会(国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会)における議論で、日本に財産がある場合についても、日本の裁判所を利用できるようにすべきではないか、という議論がありました。

特に、遺産の相当部分が日本にある場合や、日本に不動産がある場合などは、相続人が日本の裁判所を利用する必要性があるのではないかとの意見もありました。

しかし、最終的には、財産(遺産)の所在地を基準に国際裁判管轄を認める規定の導入は見送られました。

不都合が発生する事例

被相続人の最後の住所が外国で、日本に不動産を有していた場合

しかし、この規定では、不都合が発生する場合があります。

特に、被相続人の最後の住所地が外国にあり、その方が日本に不動産を有していた場合が、問題になりやすいです。

このような場合、どうなるのでしょうか?

被相続人が亡くなられた国の裁判所で、日本にある不動産もまとめて遺産分割できるのでしょうか?

国によっては、日本の不動産もまとめて遺産分割してくれると思います。(但し、その国の裁判所の判決(審判)をもって自動的に日本の法務局で登記できるかと言うと別問題です。おそらく他の相続人の協力が必要になると思います。)

英米法系の国では、他国にある不動産は処理しない

しかし、被相続人の最後の住所地がイギリスやアメリカであった場合、イギリスやアメリカなどの裁判所での手続では、日本にある不動産は手続の対象から外れます。

これらの国では、遺産の相続についてプロベイトと呼ばれる裁判所関与下の手続が取られますが、その際、他国にある不動産については手続の対象から外されるためです。

法律の条文上は、日本の裁判所にも国際裁判管轄がない

一方で、上記のとおり、日本の法律では、被相続人の最後の住所地が基準とされているので、被相続人の最後の住所地が外国にあった場合は、法律の条文上は、日本の裁判所にも国際裁判管轄がないことになります。

そうすると、日本の不動産は、どこの国の裁判所でも遺産分割できないまま、故人名義で残ってしまうことになります。売ることもできません。

私も今、実際にこのような案件に直面しています。

「緊急管轄」という考え方

しかし、日本にある不動産が、どこの国の裁判所でも手続の対象とされず、残ったままになってしまうというのは、どう考えても、おかしいです。

このような場合に、「緊急管轄」という考え方が使われます。「緊急管轄」とは、法律の規定上は日本の裁判所に裁判権があることになっていなくても、特別な必要性がある場合には、日本の裁判所の裁判権が認められる、という考え方です。

主として当事者の代理人である弁護士が必要性を説明して、裁判所が納得してくれれば、その案件を取り扱って貰えます。

私も今、実際の案件において、裁判所に意見書や資料を出して検討して貰っているところです。無事に解決したら、差し支えのない範囲でまた記事にしたいと思います。

お困りの方へ

国際相続の場合、被相続人の国籍や、相続人が住んでいる場所、財産のある場所も様々です。

また、紛争性が低くても(当事者間でだいたいの合意ができていても)、手続きのために、専門家の関与が必要となる場合もあります。

まずは相談したい、必要な部分だけ手伝って欲しい、交渉も含め全面的に任せたいなど、ニーズは様々だと思いますので、ニーズに応じたお手伝いをさせて頂きたいと思っています。

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